糖尿病のページE

運動療法について

運動療法の意義
 「原因」のページにも書きましたが,糖尿病の主な原因は過食・運動不足です。 多くの場合,食事量と運動のバランスがくずれて栄養過多になり,糖尿病を発病します。 糖尿病の運動療法のひとつの目的は,このエネルギー過多の解消であることはもちろんですが,それはごく一部でしかありません。 運動によって消費されるエネルギーはほんの少しでしかありません。 茶碗1杯分のエネルギーを消費しようとすると,約1時間一生懸命歩き続けなければなりません。
 では運動療法のメインの目的は何でしょうか? それは,体の新陳代謝を活性化させ,インスリンの作用を強くすることにあります(インスリン抵抗性の改善といいます)。 これは,インスリン注射をしている方だけではなく,全員に当てはまることです。 ご自身の膵臓から分泌されるインスリンのききをよくします。 つまり,運動をすることによって,血糖値は改善し,内服やインスリン注射の量も減らすことにつながります。 また,自分の膵臓の疲弊を最小限におさえて,長年にわたるより良好な血糖コントロールに寄与します。

糖尿病の運動療法の実際
 上記のように,カロリーを消費する目的の運動ではなく,インスリン抵抗性の改善の目的であれば,あまりハードな運動は必要ありません。 まず,理想的な運動療法も目安を書きます。
    @1日に2回
    A1回に約30分,早歩き
    B食後に一服してから運動する
    C運動療法として,1日に8千歩から1万歩

 それぞれについて,解説します。
 @朝食後と夕食後,昼食後と夕食後など,自分の生活パターンにあわせてなるべく無理なくできる時間にする。
 Aしっかり歩ければ,30分で十分でしょう。 おおむね4千歩程度歩けるのではないでしょうか。 このとき,ぶらぶら景色を見ながらの散歩では運動になりません。 大きく手をふって,全身を使って歩く気持ちで! 運動の強さとしては,冬でもあまり寒くない格好をして汗ばむ程度の運動。 脈拍を参考にする場合は,おおむね普段の脈拍の1.7〜2倍(1分間に70の方なら120〜140程度)になる程度。
 B食前の空腹時に運動すると,特に経口血糖降下剤やインスリンを使用している方ですと低血糖に陥る可能性があります。 また,食後の高血糖を是正するためにも,食後の運動がよいです。
 C万歩計を使う・使わないは自由ですが,使う場合は運動療法としてこの程度が目安です。 普通の日常生活での歩数はカウントしないで下さい。 また万歩計を使うと,運動量が数字として記録できますので,励みになったり,反省の材料にもできます。 一度は使ってみるのがよいでしょう。
 これは,あくまでもあまり合併症のない元気な方の場合で,その場合も最初から無理をしないでください。 特に40歳以上の方は基本的には,医師に全身状態を見てもらったうえで医師の指導のもとに実施してください。 リスクの大きい方は,急激な運動で眼底出血・狭心症・急性心筋梗塞などの合併症を誘発する恐れがあります。

 さて,理想論はここまでとして,現実的なお話をしましょう。 もちろん,時間・体力が許すかぎりこのような運動を行っていただきたいですが,お仕事,家事,育児,勉強など,多忙な方が多いと思います。 また天気の悪い日はさぼりたくなります。 インスリン抵抗性改善のためだけが目的であれば,1日1回の上記の運動を,1週間に3回実施できればそれほど効果は落ちないといわれてます。 3日間さぼるとかなり効果が落ちてきます。 ですから,忙しい方は,「1日おきに実施して,雨の日は休む」といった内容で実施できればおおむねよいでしょう。 最も大切なことは,長期間続けられることです。 また,階段の昇降などの強い運動は必要なく,30分程度は続けられる運動(有酸素運動)がよいです。 軽い糖尿病の場合はよいですが,強い運動で乳酸が発生して全身状態が悪化する場合があります。

 足が悪いなどの理由で,この様な運動療法ができない方は医師にご相談ください。 この場合は,できる範囲の運動で,その他の治療で血糖コントロールします。