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糖尿病の薬について(最終更新日:2017年2月)

はじめに
 他のページでも,口がすっぱくなるほど(画面が焼きついてしまうほど)言っていますが,糖尿病の薬物療法はあくまでも食事療法・運動療法を実施してたうえで,補助的に使用するのが基本です。 これは,この先長年にわたって血糖コントロールを良好に保ち,さまざまな合併症(高脂血症や高血圧,脳梗塞,狭心症などを含めて)を起こさないために必要なことです。

経口血糖降下剤(糖尿病ののみぐすり)
 薬は先発品と後発品(ジェネリック)があります。薬はまず先発品メーカーが独自の名前で販売を開始して10年間は独占販売されます。通常は10年で特許がきれて、後発品が発売されることが多いです。以前は後発品は各社様々な名前をつけて販売されていましたが、近年は成分名が商品名になることが多いので、ジェネリックの名前は各社で統一されてきています。
 下記に紹介する薬の名前は、まず先発品の商品名、後ろのカッコ内に成分名が書いてあります。


1.インスリン分泌促進系のくすり
 血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌を多くして、血糖値を下げる薬です。

1−1.スルホニル尿素剤(SU剤)

 アマリール(グリメピリド)、グリミクロン(グリクラジド)、ダオニール(グリペンクラミド)
 これらの薬剤は,古くから最も頻用されてきた経口血糖降下剤です。 それだけ優れた効果を発揮する「よい」くすりなのです。・・・・・・が,欠点があります。 それは,あなたの膵臓を痛めつける作用があることです。 このくすりのはたらきは,内服することによってあなたの膵臓を刺激して,インスリンの分泌を促進します。 その結果,インスリンが大量に分泌され血糖値が下がります。しかし長年むりやり膵臓を酷使するこのくすりを使用していると,膵臓が弱ってしまい(疲弊:ひへい),同じくすりの量でも効かなくなります。 こうなると,必ずといっていいほど永久にインスリン注射をしなければなりません。 「一度インスリン注射を始めると,一生打ち続けなければならない」と思われがちなのは,この場合のみをさします。 しかしこの場合でも,しばらくインスリン注射を続けて膵臓を休ませれば,また膵臓の機能が復活して内服に戻せることもあります。
 またSU剤はインスリン注射と同様に,体内のインスリン量を強制的に増加させますので,低血糖の危険があり注
意を要します。食事をしないで内服するのは絶対に避けてください。通常は内服後、おおむね1〜3時間で効果のピークがあり、半日〜1日程度で効果がなくなります。

1−2.速効型インスリン分泌促進剤(グリニド剤)
 シュアポスト(リパグリニド)、スターシス(ナテグリニド)、ファスティック(ナテグリニド)、グルファスト(ミチグリニド)

 これらの薬は、上記のSU剤よりも早く効果が現れて、効果の持続時間も短いです。通常、1日3回、毎食の直前に内服して、食後の血糖値だけを主に下げます。SU剤よりも血糖値を下げる作用は弱いめです。しかし強制的に血糖値を下げますので低血糖の危険はあります。この薬も、内服した場合は必ず食事をしてください。

1−3.DPP-4阻害剤
 
ネシーナ(アログリプチン)、エクア(ビルダグリプチン)、スイニー(アナグリプチン)、トラゼンタ(リナグリプチン)、ジェヌビア(シタグリプチン)、グラクティブ(シタグリプチン)、オングリザ(サキサグリプチン)、ザファテック(トレラグリプチン)、マリゼブ(オマリグリプチン)
 
DPP-4阻害剤は、近年最もよく処方される薬になっています。極めて有利な特徴があります。SU剤やグリニド剤は食事をしてもしなくても強制的に血糖値を下げるように働くのに対して、この薬は内服しても食事をしないと効果が発現しにくいのです。そのため間違った使い方や、予想以上に効いた場合でも低血糖で意識が低下して問題になる可能性が少なく安心して使いやすいです。ただ、血糖値を下げる効果は、SU剤よりはゆるい印象です。

2.糖吸収抑制系のくすり(α-グルコシダーゼ阻害剤)
 セイブル(ミグリトール)、ベイスン(ボグリボース)、グルコバイ(アカルボース)
 これらのくすりは積極的に血糖値を下げる薬ではありません。食直前に内服すると小腸の粘膜に作用して,糖分(炭水化物を含む)の吸収を抑制します。 したがって,食後の高血糖を是正することになります。 ただしブドウ糖には作用せず,すみやかに吸収されます。
 注意すべき点がいくつかあります。 この薬を単独で飲んでも、通常は低血糖にはなりません。 しかしα-グルコシダーゼ阻害剤と、1のSU剤やグリニド剤、またはインスリン注射を併用して低血糖になると,砂糖や甘いジュースを飲んでも吸収されにくく,十分な効果が得られませんので,この場合はブドウ糖を飲む必要があります(かかりつけ医でもらえます)。 また,まれに重篤(じゅうとく)な肝機能障害を起こす報告があり,定期的に血液検査でチェックする必要があります。 
診察しないで薬だけもらいに行くことを希望する方が多いですが,重篤な副作用の発見が遅れることがありますので,診察は受けてください。 これはどんな薬でもいえることです。

3.SGLT2阻害剤
 デベルザ(トホグリフロジン)、スーグラ(イプラグリフロジン)、フォシーガ(ダパグリフロジン)、ジャディアンス(エンパグリフロジン)、ルセフィ(ルセグリフロジン、アプルウェイ(トホグリフロジン)、カナグル(カナグリフロジン)
 腎臓は、血液中の余分な水分や老廃物を尿として体外へ排出する働きがあります。正常人では、通常は血液中から尿に糖が排泄されることはありません。 糖尿病で血糖値がおおむね180mg/dlを超えた場合は、尿に糖が漏れてきます。
 SGLT2阻害剤は、強制的に尿に糖分を排泄させるように作用して、血液中の糖分を減らして血糖値を下げるように働きます。この薬も、単独では低血糖になる危険は少ないと言われています。ただし水分も同時に排泄しやすくなりので、脱水に注意すべきです。また尿に栄養分(糖分)が多くなるので、雑菌が繁殖しやすくなって膀胱炎などの尿路感染症が起こりやすくなります。


4.インスリン抵抗性改善系のくすり
 過食・肥満・高血糖などで高血糖が続くとせっかくのインスリンの作用が低下し,高血糖の悪循環に陥ります。この薬はインスリンの抵抗性を改善してその効きをよくするはたらきがあります。 特に肥満による糖尿病に効果を発揮します。 インスリン分泌量や注射量は同じでも,血糖が下がりますので,膵機能を温存するためにも有効と思います。 ただし,もともとインスリン抵抗性が起こっていること自体が問題で,食事・運動療法をしっかり行い,インスリン抵抗性を解除するのが基本であると私は思います。
4−1.ビグアナイド剤(主に肝臓に作用)
 メトグルコ(メトホルミン)、グリコラン(メトホルミン)、ジベトス(ブホルミン)

ビグアナイド剤は古典的な経口血糖降下剤で,乳酸アシドーシスという副作用のため一時あまり使われなくなっていましたが、最近その作用が見なおされて使用されるようになっています。この薬は食後に内服することにより肝臓での糖新生が抑えられ血糖が上昇しにくくする作用があります。血糖がかなり高くて全身状態があまりよくない方(乳酸アシドーシスの危険がある)には使えません。また高齢者は副作用が起こりやすくなります。造影剤の検査や手術をする場合は、数日前から薬を中止する必要があります。
4−2.チアゾリジン剤(主に筋肉に作用)
 アクトス(ピオグリタゾン)

この薬は肥満が強い方に、かなりよく効くことが多いです(効きにくい方もいます)。ただし、体がむくんだり、心不全が起こりやすい薬です。この薬のお世話にならないように、自己管理をお願いします。

インスリン注射
 他のページにも書いていますが,インスリン注射を一旦始めると一生続けなければいけないというのは間違いです。 インスリンの注射は,「その時の血糖値を下げるために打つ」という意味にすぎません。 糖尿病の方が肺炎などを起こすと,血糖値は上昇します。 このような時に入院すると多くの場合,インスリン注射をします。 しかしこの場合は肺炎がなおれば,またもとの治療にもどせます。 一般的な2型糖尿病で絶対にインスリン注射を永続しなければいけないというのは,膵機能の低下が著しく,内服(もちろん食事療法と運動療法も)ではどうしても血糖コントロールができなくなった場合が一般的です。 一生,自分の膵臓を大事にしたいのなら,出きるだけ早くインスリン療法に切り替えたほうがよいことも他のページで書いています。若年者で突然発症する1型糖尿病では通常最初からインスリン自己注射が必要です。
 また,以前はインスリンの注射はガラス瓶のバイアルから普通の注射器ですって注射していましたが,近年はペン型の注射器が用いられ,非常に簡単に注射できるようになっています。 副作用の面でも,内服薬よりもはるかに安全です。 微量の防腐剤・安定剤などは入っていますが,基本的には本来体にあるインスリンを補充するだけなのですから。

インスリンの種類
1.速効型インスリン(商品名:ヒューマカートR,ペンフィルRなど・・・・Rが付きます)
 これは,注射して1〜2時間をピークに短時間に強く作用します。 4〜5時間もすると,ほとんど効果はなくなってきます。 これは,インスリン分泌が極度に低下している方に必要で,1日に3回打つ必要があります。 さらに1日に1回,中間型や長時間作用型のインスリン注射を併用するのが基本です。 軽症の方でも,理想的にはこの方法で実施するのが,もっとも本来の膵臓の働き方に近いので,よいのですが・・・・・面倒です。
2.中間型インスリン(商品名:ヒューマカートN,ペンフィルNなど・・・・Nが付きます)
 注射後,半日程度持続して効果を発揮し,まる1日もすると効果はなくなります。 その作用のピークは注射後約4時間程度です。 比較的軽い方では1日に1回,朝食前に注射します。 1日の血糖の変動のバランスが悪ければ,夕食前にもうって,朝夕の量のバランスを調節します。 このインスリンは,比較的膵機能が残っている場合や,高齢者などで厳密な血糖コントロールが不用な場合などに適しています。
3.混合型インスリン(商品名:ヒューマカート3/7(サンナナと読む),ペンフィル30Rなど)
 これは,1の速効型と2の中間型を混合したものです。 上記の3/7も30Rも,Rが30%でNが70%の割合で混合してあります。 作用時間は,お察しの通りです。 多くの場合は朝夕の1日2回うちでうまくいく場合が多いです。 このインスリンは,Nでは血糖コントロールがうまくできないような膵機能がさらに弱っている方に適しています。
4.長時間作用型インスリン(商品名:ノボリンU,レンテなど)
 このインスリンは,1回うつと24時間持続してやんわりと効果を発揮します。 低血糖のリスクが少ないので高齢者に適していますが,厳密なコントロールはあまり期待できません。 血糖が上昇しやすいのは,朝から昼にかけての場合が多いので,その意味からNの朝1回うちの方がうまくいく場合が多いです。 最近は,あまり用いられません。
5.超速効型インスリン(商品名:ヒューマログ)
 2001年秋に発売されたインスリンで、1のこれまでの速効型よりもさらに速く効果を発揮します。注射後に速くから効果が出て、その作用のピークは1時間後です。これまでのインスリンは食事の30分前にうつのが基本でしたが、これは直前にうちます。現在のところは、これまで1日に3回〜4回打っている方を対象に主に使用されていますが、近い将来にこれを用いた混合型も発売予定です。
6.注射以外のインスリン
 現在のところ、まだ世界のどこでも販売されていませんが、日本を含めて各国で開発・治験がすすめられています。液体を霧状に噴霧して吸入するもの、内服するものなどいろいろありますが、まだ発売のめどはたっていません。数年後に発売という話もありますが、不確定要素が多くかなり先になると思います。

インスリン注射の注意事項
@低血糖に注意
 経口血糖降下剤(SU剤)の時と同じく,食事量とのバランスがくずれると,低血糖になります。 インスリンを打ったのに1時間も食事をしない(急に電話がかかってきて長話をするなど)と,必ずといっていいほど低血糖になります。 またインスリン注射をしている方は,ぜひ血糖自己測定をしてください(健康保険がききます)。 経口血糖降下剤の方も同様に自己測定をしていただきたいのですが,保険がきかないので全額自己負担となってしまいます。
Aインスリン注射時の注意
 インスリン注射(皮下注射)の部位は,上腕・腹部・大腿部(ふともも)が一般的です。 どこでもよいのですが,自分でうつには上腕は不向きですね。 腹でも足でもかまいませんが,注意すべき点はどちらかに統一すべきです。 なぜなら,腹と足では,皮下の脂肪の厚さが違い,吸収されるスピードが違うからです。 そして,毎日2cmずらした場所に注射します。 同じ部位にばかりしていると,皮膚・皮下組織が硬くなり,吸収されにくくなってきます(痛みが少ないといって,そうする方がいますが間違いです)。
 注射部位をアルコール綿で消毒し,皮膚を軽くつまんで,その真ん中に注射します。 ペン型インスリンの針は8〜10mm程度の長さがありますが,垂直に入るだけさしてちょうどよい深さになります。 また,目にみえる血管は避けてうちましょう。
 注射前に,から打ちを必ずしてください。 ペン型の場合は,実際の単位数を設定する前に,必ず2単位を上向けにから打ちして,針先からインスリンが出ることを確認してください。 空気が入っていると,目盛りも少ない量しか注入されません。
 R以外の多くのインスリンは,ガラス管(またはバイアル)の中で沈殿しています。 必ずあらかじめよく混ぜてください。 この時,泡が立つような振り方は避けて,ゆっくり倒立を繰り返してください。 よく混ざらないと,同じ量をうっても速く強力にききすぎたり,ゆっくりに長時間きいてしまったりします。
 血糖測定もせず,自己判断でインスリン注射をやめたり,量を増やしたりは,絶対にしないでください。 仕事先で(特に接待のときなど)みんなの前でインスリン注射をするのがいやで,さぼってしまう方がおられます。 どうしても見られたくないのであれば,トイレの個室でうってください。 また,あらかじめ針をセットしておいて,みんなに見えないようにこっそりズボンの上から足に注射する方がおられますが,本来はしっかり皮膚の表面を消毒すべきです。 あまりお勧めはできません。 実際にはズボンの上からうっても,ばい菌が入って化膿することはまずないようです。 全くうたないよりは,この方法でもうつべきだと私は思いますが・・・・・・(他の医師におこられそうですが)。 ちなみに,欧米では注射前に皮膚をアルコールで消毒せずにうつ人がかなり多いそうです。「消毒できないからインスリンを打たなかった」ということはいけません。