糖尿病のページD

食事療法について

 治療総論でも書きましたが,糖尿病の患者さんは,必ず食事療法が必要です。 なぜなら,食べ過ぎで(食べ過ぎとは自覚していない方が非常に多いです)膵臓を酷使して,その結果インスリンが十分に分泌されなくなってきたから血糖値が上がってきたのです。 食事療法をしないで経口血糖降下剤に頼ると,さらに膵臓に負担をかけ続け,インスリンの分泌もどんどん低下していきます。 最も多く使われている経口血糖降下剤は,膵臓からのインスリン分泌を促進する働きを利用していますので,膵臓を酷使しその結果さらに膵臓が弱ってしまいます。
 また食事療法をしないでインスリン注射でむりやり血糖コントロールした場合は,どんどん肥満傾向になり,体脂肪が増えるとインスリンの作用が弱くなり,より多くのインスリン注射が必要になります。 この悪循環で,際限なくインスリン量は増え,高度の肥満になります。
 糖尿病の制限食は,かなりエネルギーを制限された過酷な修行のようなものだと思われがちですが,決してそのようなことはありません。 カロリー計算が面倒だということはありますが,慣れれば大した労力ではありません。 また「空腹感との戦い」と考えられがちですが,1ヶ月間真剣にとりくめば体がなれてきます。 そのためにはぜひとも1ヵ月間の教育入院をしてください。 「元気やのに入院なんかしたくないわ」といわれますが,これから数十年の長い人生のうちの,この1ヶ月が非常に重要な意味を持つのです。 80歳のご高齢の方にはこの様な入院は勧めません。 どうしても仕事を休めない方以外は積極的に入院してください。 仕事を休んででも行くべきですが・・・・。
 また,糖尿病食は食べてはいけないものはありません。 何でも偏りなく,量を加減して食べるというものです。 これは糖尿病の方に限らず,すべての方に勧められる健康食です。

おなかがへる理由
 空腹感を感じるのは,胃の中がからっぽになるからではありません。 通常は,食後2時間もすれば胃の中はからになっています(子供では1時間)。 2時間おきに食事をするひとはいないでしょう。 ではどうして普通1日3食で十分なのでしょうか? それは,血糖値に大きくかかわっています。 完全に解明されているわけではありませんが,脳には摂食中枢があり,血糖値が下がってくると空腹感を感じます。 どこまで下がれば空腹と感じるかは,人によって大きく異なります。  この閾値が高い方は若い時から食べ過ぎて肥満になります。 糖尿病の方は特に,この中枢が高血糖に麻痺してしまっていて,閾値がかなり上昇してしまっています。
 この閾値を下げるには,つらいですが1ヵ月間頑張って空腹感に耐えなければなりません。 必ず慣れてきますので,がんばってみましょう。

糖尿病の食事療法の秘訣
 難しい話は後回しにして,わかりやすいポイントをいくつか紹介してみましょう
・まず間食をやめましょう
 3食のカロリーは比較的良くても,お菓子・果物・牛乳・ヨーグルト・トマトなどの間食でかなりカロリーオーバーになっている方が多いようです。 偏見といわれるかもしれませんが,女性にその傾向が強いようです。 血糖値は1日のうちでも,食事によって大きく変動します。 間食が多いと血糖値が下がる時がなくなってしまい,膵臓が休まる時間がありません。
・食事は時間をかけてゆっくりと
 1回の食事は,よくかんで20分以上かけて食べましょう。 その理由は上に書いたように,満腹感(満足感)は血糖値が上昇することによって得られるからです。 5分で食べ終わってしまうと血糖値がまだ上がってこないので,満足感は得にくいのです。 食事の前に甘いものを食べると食欲が落ちるのは,このためですね。
・「甘いものは食べてはいけない」は間違い

 糖尿病は甘いものを食べてはいけないと思われがちですが,嗜好品として過量に摂取するのがよくないのです。 でもやはり甘いジュースを1本(200ml)飲んだり,まんじゅうを立て続けに2個食べたりすると,血糖値はかなり上がってしまいます。 量を加減して下さい。
・「ごはんをへらせ」はまちがい
 医者から「ごはんをもっと減らしなさい」といわれて,小さなごはん茶碗に半分しか食べない方がおられます。 しかしなぜか体重は減らないし,血糖も良くなりません。 よく話をきくと「おかずは若い人と同じにしています」といいます。 医者の言う「ごはん」は”朝ごはん”の”ごはん”を指していて,パンを食べても朝ごはんです。 食事全体を減らしなさいと言っています。 もちろんこういった誤解が生じるのは医者の言い方がまずいのです。 私は言い方には常に気をつけていますが,ついついゴハンといってしまうことがあります。 主食のご飯やパン,いも,かぼちゃなどは,まんじゅうと同じ糖質です。 ご飯もほどほどに減らす必要はありますが,それよりも同じ量でもカロリ−の高い蛋白質(肉・魚・卵などの動物性,大豆も蛋白が豊富)や,脂質(揚げ物,肉の脂,ドレッシング,マヨネーズなど)を減らす方が効果的です。 要するに,人間の進化とともに,”美味なもの=カロリーの高いもの”が増えてきたのですね。 揚げ物よりも焼き物や煮物にしましょう。
・ケーキより和菓子がよい
 先にも書きましたが,お菓子も食べて結構です。 栄養学的な指導では,お菓子を食べない形で指導します。 でも全く味気ない生活も嫌なものです。 食後にようかんと煎茶など,おつですね。 ただし,ようかんは2cm程度に切った一切れで,1日に1回にしてください。 また,間食に食べずに食後に食べてください。 また,基本的にはようかんの分のごはん(糖質)は減らしてください。 ケーキなどの洋菓子は,甘さ控えめのものでも玉子・クリームなどをたっぷり使っているので,かなりカロリーが高いです。 その点,ようかんや饅頭は,豆と砂糖が主原料で糖質がメインです。 甘いので満足感も得やすいし,主食のご飯と同じようなものです。
・野菜にはカロリーがない?
 いえいえそんなことはございません。 味があまりないものは,カロリーがなさそうに感じますが,トマトなんかは果物とあまり変わりません。 健康によいからと,夏に大きなトマトを3つも4つもまるかじりする方がいますが,ジュース2,3本を飲んでいるようなものです。 もちろん,竹の子やこんにゃく(野菜?)など,非常にカロリーの少ない野菜もあります。
・「健康によい食品」に注意!!!!!
 患者さんにいろいろ話をきくと,「ヨーグルトは体にいいと聞いていますから,くだものの入ったのを1日に2〜3個食べています」という方や,「健康のため牛乳を毎日500ml飲んでいます」という方もおられます。 これを読んで「えっ!だめなの?」と思う方は問題ありです。 今の世の中は,「体に良いものを積極的にとりましょう」といった風潮にあるようです。 テレビのCMなんかも大きく影響していると思います。 また健康雑誌・健康食品産業が花盛りで,大いに繁盛しているようです。 もちろん体によい成分が含まれていると思いますが,余分なカロリーをいっしょにとってしまいます。
 普通はバランスよく食事していれば,健康補助食品を摂らなくても体調をくずすようなビタミン不足に陥ったりすることはありません。 カルシウムをとるなら,おかずの一部を小魚にするなどで,十分対処できます。 じゃこめしはうまい!!!
 

1日に摂取するべきカロリーの決め方(カロリーとエネルギーは同じと思ってください)
 これは一概に決めにくいので,主治医と相談していただくのが一番です。 が基本的な考え方を示しておきましょう。 また以下の説明は大人の場合であり,成長過程の小児では異なってきますのでご注意下さい。
 (1日の摂取すべきカロリー)=(普通に生活して必要なエネルギー)+(運動によって消費されるエネルギー)
上の式を頭にいれておいてください。 別に難しいことはありませんね。 極端な例では,寝たきりの方は,運動によるエネルギーを考える必要がありません。 個々について説明します。
・普通に生活して必要なエネルギー
 これは,普通体重1kgあたりで求めます。 ここでいう体重は,今のあなたの体重ではなく標準体重です。 標準体重は,一応の体重の目標値ですが,決してこれにしなければならないわけではありません。 筋肉質の方では多めでよいなど・・・・。 標準体重の求め方は
           標準体重(kg)=22×身長(m)×身長(m) 
で求めます。 また1日のカロリーは,標準体重1kgあたり25〜30kcal(キロカロリー)を必要とします。
 たとえば身長が160cmの方ですと
           標準体重(kg)=22×1.6(m)×1.6(m) =56.3(kg)
    普通に生活して必要なカロリー(kcal) = 56.3(kg)×25(kcal/kg) =1400(kcal)
程度となります。 今,体重1kgあたり25kcalで計算しましたが,30kcalでも計算してみてください。
・運動によって消費されるエネルギー
 これは,人それぞれ大きく異なります。 おおむねの目安を示しておきます。
@移動は電車・車など,デスクワーク・軽作業,専業主婦,運動療法で1日30分の速歩き
 この程度の運動量なら,普通の生活の範囲内と思ってください。 上の式で,1kgあたり30kcalとしていただいたらよいでしょう。 屋内での軽作業や家事は,結構しんどいですが,立ちっぱなしや精神的なしんどさが加わっていて,消費エネルギーは少ないです。
A中等度の運動
 毎日30分のジョギングをしている,水泳を毎日30分している,土木の力仕事をしている(最近は小型重機が使われますので人手の穴掘りなど少ないようですが)などの方は,おおむね200〜300kcal増やしていただいていいと思います。
B高度の運動
 1日中速足で歩き回っている仕事,運動選手など,この様な方は糖尿病になることは少ないですが(お相撲さんは別),おおむね500kcal程度の加算でしょうか。

 最近は,運動になる仕事が非常に少ないようです。 農業で畑を見まわって草引きする程度では運動になりません。 山を見て回るのはよい運動になります。 歩くのも,ぶらぶらゆっくり歩いても,あまりカロリーを消費しません。 運動でやせようとするのは無理と考えてください。 糖尿病の運動療法の意義は,次の運動療法のページをみて下さい。
 

もう少し,内容を増やす予定です。