糖尿病のページG

日常生活の注意点

はじめに
 糖尿病の方は,普通の方に比べて注意を要することがいろいろとあります。 よく理解して,すこやかな日常生活を送っていただきたいと思います。 いずれの場合も,早めに対処すれば問題ないことがほとんどです。 何か異常を感じたら,早めに医療機関で相談するようにしてください。 糖尿病の患者さんが,体の変調を来たす状態の時のことをシックデイ(shick day)といいます。 ここではおもにシックデイの対応を記載いたします。  

感染症に注意
 血糖が高い状態が続くと,免疫力が低下し,ウイルス感染細菌感染を起こしやすくなります。 ウイルス感染は風邪インフルエンザなど,細菌感染は肺炎・腎盂腎炎(じんうじんえん)・胆嚢炎(たんのうえん)・肝膿瘍(かんのうよう)・化膿性脊椎炎(かのうせいせきついえん)・蜂窩識炎(ほうかしきえん:皮膚の下の柔らかい組織への感染で全身のどこにでも起こり得ます)などなど。 また,歯周病から入れ歯になる可能性もあります。 以下にそれぞれの注意点を書いていきます。
・風邪,インフルエンザ,気管支炎,肺炎,肺結核など(呼吸器系感染症)
 糖尿病の方は,ウィルス感染である風邪やインフルエンザに罹患すると,さらに血糖値が上昇傾向になります。 ただし,極端に食事量がへると,低血糖になる場合もあります。 また下痢を伴うと血糖値は下がり気味になります。 いずれにしても十分に養生しておかないと,細菌感染症である気管支炎から肺炎に重症化してしまいます。 十分に養生しているのに風邪が3〜4日以上長引く場合や,徐々に咳・痰が増えてくるなどの症状があれば,肺炎になる前に,抗生物質の内服をしておいた方がよいでしょう。 普通の抗生物質はウィルスには効果はありません。 しかし,普通の人でも発熱が強い時や気管支の炎症が強いときは,気管支炎に移行しないように,抗生物質をよく使います。 いずれにしても,一度医療機関を受診して,血糖値を測定して指示を受けるようにしてください。 長く咳が続くときは(2〜4週間以上),結核も疑われるので受診してください。
・膀胱炎,前立腺炎,腎盂腎炎(泌尿器系感染症)
 泌尿器系感染症は,通常逆行性に感染します。 つまり尿の流れとは逆行して,細菌が尿道口から進入し,膀胱,尿管,腎臓へと上がっていきます。 また女性に多い感染症です。 その理由は尿道口と肛門が近接しており,便の大腸菌が付着しやすく,また膀胱までの距離が男性の4分の1くらいしかないので,比較的膀胱へ進入しやすいのです。 女性は排便後にペーパーで拭く時は,前から後ろに向かって拭くように心がけましょう。 男性では頻度はかなり少ないですが,前立腺が膀胱よりも下にあるために,膀胱炎よりも先に前立腺炎になります。 症状は膀胱炎も前立腺炎も,排尿時痛,残尿感,下腹部痛などです。 普通この段階では抗生物質を数日間内服すればなおります。 しかし細菌が腎臓にまで逆行して腎臓で繁殖すると腎盂腎炎と呼び,熱が出るようになります。 こうなると食欲も低下しますし全身倦怠感も強くなります。 入院して抗生剤の点滴を何日も続ける治療が必要です。 こうなると血糖値もかなり上昇し,通常は感染がおさまるまでインスリン注射をします。 血糖が高いといずれの段階でも悪化しやすいので注意してください。 また,腎盂腎炎を繰り返す方は,膀胱尿管逆流症(VUR)という状態が原因のことがあり,簡単な手術で再発しなくなることがあります。
・胆嚢炎,胆管炎,肝膿瘍など(肝胆道系感染症)
 肝臓から出ている肝管と,胆嚢から出ている胆嚢管は,合流して総胆管となって十二指腸に消化液を分泌しています。 通常は十二指腸から総胆管内に細菌が逆流して悪さをすることはありませんが,合流異常や胆石などがあると,このあたりに細菌が進入し,繁殖してしまいます。 さらに糖尿病も大きなリスクになっています。 症状は,発熱,悪心,右上腹部痛などです。 総胆管内に石がある場合は,早急に治療をしないと重症の胆管炎で死亡することもあります。
・蜂窩織炎
 蜂窩織炎は,皮膚の下(皮下組織)で細菌感染が広がる状態です。 表面的には,膿(うみ)が出るわけではありません。 炎症の強い部分の皮膚が赤く腫(は)れてきます。 からだのどの部分でも起こり得ます。 多くは皮膚の小さな傷から細菌感染がおこり,中で広がります。 高血糖状態ではやはり発病しやすいですが,糖尿病患者さんの場合,最も問題なのは痛みをあまり感じないことがあるということです。 普通は痛みがありますので重症化する前に受診されますが,糖尿病性神経障害があると痛みを感じにくいので,「腫れてきて,なんとなくしんどい」という自覚症状しかなく,かなり重症化してから受診される場合があります。 特に目が行き届きにくく,また神経障害の出やすい足に発症しやすいです。 糖尿病の患者さんは,足を常に清潔に保ち,感染の原因になりやすい水虫やひび割れは治療しておきましょう。 爪はまめに切り,深爪をしないように注意。 1日に1回は足を観察して,腫れているところがないかを確認してください。 重症化すると,血行障害も伴っていれば足の指などが壊疽(えそ)に陥り,切断しなくてはならないこともあります。
・歯周病
 ご高齢の方はどなたでも歯肉(はぐきのことです)が弱ってきて(歯周病が主な原因),歯を固定できなくなってきます。 この程度がつよいと歯が抜け落ちて入れ歯をする必要が出てきます。 歯周病には細菌感染やカンジダなどの真菌感染が大きく関わっていると言われています。 また,血行障害も関与していると考えられます。 いずれも糖尿病では進行しやすいので,十分に注意してください。 一生自分の歯で食事していきましょう。

足のケア
 大事なことです。 上の蜂窩織炎をご参照ください。 お風呂に入ったときは,ゆびの間もしっかり洗って,清潔にしてください。 入浴しない日でも,できるだけ足浴してください。 

歯のケア
 これも大切なことです。上の歯周病をご参照下さい。 血行障害も糖尿病から歯肉が弱くなる原因になります。 歯磨きのときには,しっかりと歯肉もブラッシングするように心がけてください。 私は歯の専門ではありませんので,歯科医の指導を受けてください。 リンクのページに私のお気に入り歯科のホームページを紹介しています。 ご参考にしてください。 最近,歯周病の原因として真菌(一種のかび)が注目されています。 当院でもこの治療を検討しています。 ご相談ください。 う歯(虫歯)は必ず治療して下さい。

低血糖時の対応
 経口血糖降下剤やインスリン注射を実施している患者さんでは,膵機能の弱りが強い方ほど,高血糖・低血糖を起こしやすくなります。 また普段は良好なコントロールの方も,たまたま食事量が少なかったとか,運動量が急に増えた,下痢をしたなどの時に低血糖に陥ることがあります。 上の「合併症」のボタンから,低血糖昏睡のところをご参照ください。 もしあやまって,過量の経口血糖降下剤やインスリンを使用してしまった時や,健常者があやまって経口血糖降下剤を飲んでしまった時などは,早急に医療機関に連絡してください。 また,糖尿病の薬は絶対に乳幼児や他人の手にわたらないように気をつけてください。