「わたしのカルテ」について(2002.6.19作成)


「わたしのカルテ」とは

 「わたしのカルテ」は当院のカルテそのものです。電子カルテを使用していますので、診察時に入力したカルテをA5用紙に印刷して、患者さんにお持ち帰りいただきます。初診時にはそれを綴じるバインダーをお渡ししています(安物ですが)。カルテの内容は、「せきが出る」「胃が痛い」などの患者さんの訴え、診察所見、医師の診断(状態)、治療方針、指導内容、処方薬、検査内容、検査結果など、診療に必要な内容がほどんど網羅されています。その他、心電図のコピー、眼底写真、エコーの写真なども裏面に貼り付けてお渡しします。血液検査データの結果は、お渡ししてご自身で裏に貼り付けて保管していただいてます。
 ただし、この印刷は診察終了時に印刷するため、会計時にさらに入力される各種の指導料などはまだ記載されていないことが多いです。また、限られた外来診療時間中には書ききれないことや書き忘れたことなどは、後から追記する場合があります。従って、当院に保管するカルテとお渡しするカルテとは完全に一致するものではありません。

「わたしのカルテ」の意義

1.病気の自己管理に役立ててください
 糖尿病、高血圧、高脂血症をはじめ、各種の生活習慣病は食餌療法・運動療法などの自己管理が非常に重要な疾患です。どのような治療をして、実際にどのような効果があったのかをご自身で判断していただき、自分の健康状態を把握していただくのに役立ちます。

2.説明した内容を、家でゆっくり読みなおせます
 外来診療中に、医師(私)が早口でまくしたてても(ゆっくりわかりやすいように話しているつもりですが)十分に理解できていない場合もあると思います。その場合は、説明した内容のエッセンスはカルテに記載されていますので、読み返していただければ理解していただけることと思います。もちろん不明な点は、お気軽に電話で尋ねていただければ結構です。

3.他の医師に、ご自身の健康状態を理解してもらえます
 定期的に医師にかかる必要のある患者さん、つまり慢性の基礎疾患がある場合、他の科の医師もその疾患を把握する必要があります。これは非常に重要なことです。例えば歯科で抜歯をする場合、糖尿病の血糖コントロールが悪かったり血栓予防の薬を使っていたりすると抜歯が困難になります。これを知らずに抜歯すると、血が止まらなくなったり傷口が治りにくかったり、細菌感染を合併しやすくなったりします。薬の重複や飲み合わせも問題になります。また、耳鼻科や眼科、その他の科でも、基礎疾患との関わりが非常に重要です。
 他の医療機関を受診する場合は、「わたしのカルテ」と「薬剤情報書(くすりの説明書)」を医師に見せていただければご自身に最適な医療を選択してくれるはずです。ただし、できる限り当院から「情報提供書(紹介状)」を持参するようにしてください。

4.医療機関を変える時もスムーズに
 「山村内科は気に入らないからよそに変わりたい」とか、私が急な事故等で診療不能な状態になった場合、他の医療機関を受診することになります。この時に「わたしのカルテ」が役に立ってくれると思います。このことは、後述する『私が「わたしのカルテ」を始めた本当の理由」に関連しています。また、医療機関を選択するのは患者さん自身です。医師は「こういう病気ならアノ病院のどの先生がよいですよ」とか助言はできますが、最終的に決めるのは患者さんご自身です。

私が「わたしのカルテ」を始めた本当の理由

 私の父はやはり医師でした。過去形になっていますが1994年に亡くなりました。父はこの地で「山村医院」として数多くの患者さんを診療していましたが、急に病に伏した時に代わりの医師もなく、私も研修医になりたてで、通院していた患者さんに十分に紹介状を書いてあげることができませんでした。患者さんには近くの医療機関に行っていただきましたが、ご自身の病状や飲んでいる薬の内容を十分に説明できなかった方も多かったことと思い、非常に私自身が口惜しい思いをしていました。
 そこで、2000年に私が父のあとを再び開業する時には、私がいつ倒れても患者さんには極力迷惑をかけない方法はないかと考えて、この「わたしのカルテ」を開始することに決めました。カルテ自体を患者さんが持っていれば、それを他の医師に見せれば当然診療内容を把握してもらえますし、同様の治療をすぐに継続してもらえることでしょう。

「カルテ開示」について

 私が言うのも何ですが、医師がカルテそのものを患者さんに渡すということは非常に勇気がいることです。一度お渡ししたカルテは回収できませんし、当然改竄(かいざん)も不可能です。出したものには全面的に責任を持つ必要があります(もちろん出さない場合も同じことのはずですが)。
 最近、「カルテ開示」という言葉が新聞等で時々見られますが、現在実施している医療機関ではそのほとんどは患者さんから要求があった場合に有料でカルテをコピーしてお渡しするというものです。「カルテ開示」については非常に難しい側面があります。カルテには、患者さんには言えないようなことを書く場合もあるからです。例えば「ガン」の患者さんには本当の病名を本人には伝えずに家族だけに話している場合もあります(私個人的には積極的にご本人に告知すべきだと思っていますが、知りたくないという方が多いのも事実です)。この場合、ご本人は生きる希望をもって通院しているのに、カルテ開示をして自分がガンだとわかったら生きる気力を無くしたり、医師との信頼関係がなくなり治療の継続ができなくなったりします。幸い当院は開業医ですので「ガン」との関わりは比較的少なく、現在のところ問題にはなっていません。現在通院しておられる「ガン」の患者さんは、皆さん「ガン」だとご存知です。
 ところが、「ガン」の患者さんが多い病院では「カルテ開示」が大きな問題になってきます。開示になかなか踏み切れない医療機関は、そういう理由からです。決して悪いようには考えないでください。当院でしていることが特殊すぎるのですので、他の医療機関に同じことを求めるのは無理があります。